2021/10/26

2021年9月に調査を終了したケース

 2021年10月1日、同年9月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年10月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年9月)に調査を終了したのは11件で、このうち10件で調査結果が通知されている。また、残る1件は調査をしない旨が通知され、調査が終了している。

以下では、今回公開を受けた案件のうち、特に興味深い3件について、コメントしたい。まず、第1の案件が、第2021-27号である。この案件は、新幹線のトンネル工事から発生する汚染土の処理について、地域住民を対象に開催された住民説明会の実施方法についての苦情である。

調査を担当した田村智幸オンブズマンは、判断の冒頭で前提となる事実関係を確認した上で、どのような判断枠組みで、どのような論点について判断するのかを示したのち、各論点について判断している。このように、論点整理をしたうえで判断が示されていることから、その論旨は極めて明快である。このような判断手法を採用したのがたまたまなのか、今後も同様の判断がなされるのかは不明だが、当ブログ開設者としては、オンブズマンがその手腕を惜しむことなく発揮することを期待したい。

次に、第2の案件が、介護保険給付を利用して行った住宅改修に関する第2021-42号である。当ブログ開設者は、8月に調査を終了した第2021-17号を契機として、市の介護保険課に制度に関する不明点を問い合わせているところ、この第2021-42号の市の回答が住宅改修費の申請手続きを簡潔かつ明瞭に説明していることは、大いに理解の助けとなった。

もっとも、この案件を担当したオンブズマンもまた第2021-17号と同様に、介護支援専門員(ケアマネージャー)の対応についての見解を開陳しているところ、「市の機関の業務の執行に関する事項」(札幌市オンブズマン条例3条)というオンブズマンの所轄事項に該当するか、疑問である。むしろ、介護支援専門員(ケアマネージャー)に対する市の権限が適切に行使されているかという観点から、オンブズマンの調査がなされるべきであったと思われる。

また、オンブズマンは、住宅改修を行った事業者と申立人のやり取りについて、「市の業務ではない」として調査対象とならないと述べるものの、この論点も同様に、住宅改修費の支給に関する市の権限(介護保険法45条8項、同法57条8項)を手がかりとして、事業者の対応に市が関与することができるか否か、検討する余地はあったであろう。

以上の次第で、この案件を担当したオンブズマンも、9月に調査を終了した第2021-17号を担当したオンブズマンも、今後、介護保険に関する苦情が申し立てられた場合に備え、「市の機関の業務の執行」という観点から、介護保険法に定められた市の権限を把握しておく必要があると思われる。

その際、介護保険法の「第4章 保険給付」と、「第5章 介護支援専門員並びに事業者及び施設」のそれぞれに権限が定められていることに留意する必要がある。これらの権限を適切に把握した上で、市の権限を媒介として調査を実施しない限り、オンブズマン調査の所轄事項該当性について、疑念を生じさせることになろう。

最後に、第3の案件が、第2021-51号である。この案件は、申立人が第2021-35号の案件を申し立てた際、オンブズマンと面談することができなかったという苦情である。

そもそも、オンブズマンによる面談の実施は「オンブズマンの行為」(札幌市オンブズマン条例3条5号)として、オンブズマンの所轄外の事項になりそうなものだが、この点はさておき、当ブログ開設者は第2021-35号を担当したオンブズマンの名を見て、申立人にとっては、面談しなかったことがむしろ幸いだったのではないか、と感じた次第である。

それは、オンブズマンが面談の場で不用意な発言をして、申立人の感情を害するという事態を招くことが回避されたからである。オンブズマン事務局はそのことを懸念して、あえて面談できないようにしたのではないかとも思ったが、下種の勘繰りであろうか。

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①第2021-27号
 北海道新幹線のトンネル工事により発生する汚染土の処理について、市が実施した地域住民に対する住民説明会では対象とする地域が狭すぎるとして、地域を拡大して住民説明会を実施することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2021-31号
 生活保護受給者が、年金が減額されたことにともない保護費が増額されたにもかかわらず保護変更決定通知書が送付されていないこと及び担当ケースワーカーによる家庭訪問が適切に実施されていないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2021-37号
 飲食店を経営する企業が、道及び市が飲食店に時短要請をする一方で、市民税を滞納しているとして差押通知書を送付してくることは理不尽であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-38号
 差押通知書が送付されてきたため、再度納付書を送付するよう求めたところ、送付を求めた納期分とは異なる納期の納付書が送られてきたことや、対応した職員間で引継ぎが十分認されていない等の一連の職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2021-40号
 自宅前の道路で拡幅工事が開始されて以来、車両騒音及び振とう(音)が増したとして、対策を講じることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021-41号
 生活保護受給者が通所していた就労継続支援B型の事業所から支給される工賃に未払いの残額があったことが判明した後、収入申告がなされないまま保護費から控除されたことや、事業所から工賃についての説明がなされなかったこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2021-42号
 介護保険を利用して住宅改修を行った際、工事を実施した事業者が住宅の一部を損傷させ、その修理に費用がかかったことから、修理費用の全額を弁償してほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑧第2021-44号
 2年ほど前に市営住宅の自治会が管理する駐車場の防犯灯などを自治会負担でLED電球に変更し、現在もリース料を払っているところ、最近になって、市が防犯灯のポールを交換するということであったことから、交換したLED電球を引き続き使用することや、対応した職員の対応等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-46号
 マンションに隣接する市の管理地の土圧により、マンションのブロック塀にひびが入ったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑩第2021-47号
 長年介護してきた夫が退院した後の入院先を教えてもらえないとして、苦情が申し立てられたケース。夫の退院後の処遇については高齢者介護の専門家の知見に基づいて決定されたと思われ、オンブズマンが調査・判断をすることは適当でないとして、「調査することが相当でない特別の事情がある」(札幌市オンブズマン条例16条2項)として、調査が実施されなかったケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑪第2021-51号
 札幌市オンブズマンに苦情を申し立てた際、オンブズマンと面談したいと要望したにもかかわらずオンブズマン事務局の職員により面談希望を拒否されたことから、面談が実施されないまま苦情等調査結果通知書(第2021-35号)が送られてきたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)