2020/10/31

2020年9月に調査を終了したケース

2020年10月1日、同年9月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年10月15日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(2020年9月)に調査を終了したのは9件で、このうち3件で調査結果が通知されている。また、4件は調査しない旨が通知され、2件は申し立ての取り下げにより、調査が終了している。

今回、紹介する案件のうち、第2020-26号及び第2020-35号が興味深い。

このうち、第2020-26号は、生活保護費返還に関する苦情である。申立人は、①返還決定に対する審査請求中に納入催告を受けたことと、②生活保護受給者等に対する詐欺的な行為、について苦情を申し立てた。担当のオンブズマンは、①について調査を実施する一方で、②については、申立人に実際の不利益が生じていないとして、調査を実施しなかった。

しかしながら、②の点は、申立人が表面的に主張している「詐欺的」という言い回しはともかく、保護費を返還した場合にその後の審査請求がどのような取扱いになるのかという疑問を解消してほしい、というのがその趣旨であると思われる。

そうすると、②の申立人の表面的な主張からは離れるが、ア.審査請求(または取消訴訟)で保護費の返還決定が取り消された場合、返還ずみの保護費相当額は再度支給されるのか、イ.保護費相当額が再度支給されるとして、その金額は収入認定されるのか、という点を明らかにする必要があるだろう(なお、①については「執行不停止」が原則(行政不服審査法25条1項))。

もっとも、保護費相当額が再度支給されるとしても、その金額が収入認定されるということになるならば、保護費返還決定が取り消された意義は実質的に失われるのであり、申立人の「詐欺的な行為」という言い回しにも、それなりの理由があるように思われる。

調査を担当したオンブズマンは、こうした疑問を抱かなかったからこそ、「申立人に実際の不利益がない」と判断したのであろうが、前提となる制度への理解の貧弱さが露呈したと言わざるを得ない。結果として、申立人(のみならずその背後にいる市民一般)に対し、説明がなされる機会が失われることになった。

続いて、第2020-35号である。この案件は、既視感のある苦情であるが(前提となる事実が第2020-7号と共通しているように思われる)、担当の原俊彦オンブズマンは、申立人が不利益を被ったとは認められないとして、調査を実施しなかった。

しかしながら、この原俊彦オンブズマンの判断は、致命的な欠陥を抱えている。すなわち、「市が行う業務に関する契約において、従前とは異なる契約が締結されたとしても、当該事業の目的が十分に達成される見込みが立つような内容であるならば、その契約が業務上不適切とはいえず」という一般論は述べるものの、今回の苦情の前提となる「市が行う業務に関する契約」において、「当該事業の目的が十分に達成される見込みが立つような内容である」かについては、全く判断が示されないまま、申立人が不利益を被ったとはいえないと判断しているからである。

つまり、一般的な判断枠組みを示すのみで、当該判断枠組みに基づいた個別ケースについての判断を全くしないまま、結論を導いているわけである。

また、より原理的には、市の業務が適切に遂行されたか否かという判断と、オンブズマン調査の対象となる前提としての「申立人の利害」の存否の判断は、本来、異なる判断要素である。それにもかかわらず、この案件で原俊彦オンブズマンは、双方を結び付けた判断を行っている。

こうした判断は、「申立人の利害」という形式論で処理することにより、「市の業務が適切に遂行されたか」という実体的な調査を回避しようとしたゆえのものなのかもしれないが、「手抜き」以外の何物でもないだろう。

ただし、「調査をしない」という結論そのものについては、正当化しうる余地はある。たとえば、申立人の苦情は、公金の適正な支出を問題とするものであり、申立人は利害を有しないであるとか、第2020-7号と同一の申立人であるならば、苦情の再調査を求める内容であるといった理由により、調査を実施しないという対応である(もっとも、申立人が関与する協会が再委託から排除された、という点には申立人の「利害」が認められるであろうし、この苦情が第2020-7号と同一の申立人による苦情であるかも不明である)。

以上の次第で、上記の2件は「申立人の利害」についてのオンブズマン判断に疑問を抱かざるを得ないのだが、こうした判断は、「申立人が適切な説明を受ける」という利益について、オンブズマンが軽視していることを反映しているように思われる。

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①第2020−26号
 生活保護費返還決定がなされたことを不服として審査請求を行っているにもかかわらず、保護費返還の納入催告がなされたことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2020−28号
 隣家が街路樹を申立人の自宅との境界側に移植したことに関し、市が承認したことや申立人の問い合わせに対する市の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2020−30号
 北海道胆振東部地震災害義援金の申請をしたにもかかわらず、市には受付をしていないと言われたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

④第2020−32号
 芸術の森職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。「正当な理由がない」及び申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2020−33号
 ごみ収集員が左右の安全を確認せずに道路を横断しようとして、ぶつかりそうになるのみならず、舌打ちしたことについて、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2020−34号
 市の臨時職員として勤務した際、窓口業務が過重な負担であったとして、その改善等を求めて苦情が申し立てられたケース。「職員の自己の勤務内容に関する事項」に該当するとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑦第2020−35号
 市がイベントに際し選定した業者が、イベントを再委託した団体を選定した経緯や理由が不明であるとして、市がイベントの実施責任者かつ監督義務を有する者として全容を解明することを求め、苦情が申し立てられたケース。申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2020−37号
 市民の声を聞く課で、スキャナー付きコピー機を利用させてほしいと要望したところ断られたとして、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑨第2020−38号
 地域協議会の委員の選定方法、協議会の実施方法等について、苦情が申し立てられたケース。申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)

2020/10/06

2020年8月に調査を終了したケース

2020年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年9月30日に一部公開決定がなされた(通常、公文書公開請求がなされた場合、請求の翌日から起算して14日以内に決定がなされるところ、今回も決定期間が延長された)。

上記の期間(2020年8月)に調査を終了したのは8件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る1件は調査しない旨が通知され、調査が終了している。

今回、紹介する案件のうち、第2020-29号及び第2020-31号は、担当の原俊彦オンブズマンによる、オンブズマン調査の対象事項該当性の判断が興味深い。

すなわち、札幌市オンブズマン条例は、苦情申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有しないとき」には、調査対象外の事項となることを規定している(同条例16条1項1号)ところ、第2020-31号では、市税の減免申請がすでに決定ずみであり、「利害を有しない」として、原俊彦オンブズマンはこの点の調査を実施しなかった。

しかしながら、申立人は、「当初、4か月程度かかる」という説明を受けていたにもかかわらず、1か月以内に決定がなされた「理由」についての説明を求めているのであり、適切な説明を受けるという意味での「利害」は、未だ有していると思われる。したがって、原俊彦オンブズマンは、「利害を有しないとき」の該当性をかなり広範に認めることで、調査対象を厳格に絞り込む判断を行ったことになる。

その一方で、第2020-29号は、芸術の森の駐車場の駐車料金を支払わずに利用している者がいるため、利用料金を支払った者が「不利益」を被ったという苦情について、原俊彦オンブズマンは調査を実施した。

この点、駐車場を利用しているからには駐車料金を支払うことは当然の義務であり、このことは、他に料金を支払わない者がいたからといって、変わることはない。したがって、厳格に考えるならば、ある者が駐車場料金を支払わないとしても、そのことについて、他の利用者は「利害を有しない」ことになるように思われるが、原俊彦オンブズマンは、この案件では「利害を有しないとき」の該当性を絞り込み、調査対象を広範に認め、調査を実施したわけである。

このように、原俊彦オンブズマンの判断は、オンブズマン調査の対象外事項該当性の広狭をめぐって「ゆらぎ」があり、整合性を欠くように思われる。

なお、当ブログ開設者は、オンブズマン制度の役割の一つに、市民が「適切な説明を受ける利益」を実現することがあると考えており、前述のどちらの案件も、調査を実施しない積極的な理由はないと考えている。

また、札幌市オンブズマン制度の発足に際し、当時の桂信雄市長は、オンブズマン制度の運用について、「苦情申し立てに当たっての制約につきましても、市民の権利利益を擁護するというオンブズマン制度の目的に照らして、できる限り広く取り扱うことにしたい」という議会答弁を行っていたことも指摘しておこう(平成12年第4回定例会-12月5日-02号)。

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①第2020−18号
 生活保護の受給者から、保護費の支給額の計算方法の説明や、提出するコピーの金銭負担の大きさ、自動車の利用が認められないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2020−21号
 生活保護の受給者が、転居した実態がないにもかかわらず、転居に要した費用が一時扶助として支給されたことが不正受給に該当するのではないかとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

③第2020−22号
 国民健康保険の医療費の返還について、担当した職員からいい加減な説明を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2020−23号
 生活保護の受給者が、再度の転居費用及び転居後に上限額を超える家賃の支給を求めるほか、保護課の職員による個人情報の漏洩があったことをはじめとして市職員の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑤第2020−24号
 父親が入居していた市営住宅の家賃について、減免の遡及適用を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)


⑥第2020-25号
 里親に出している娘に関する児童相談所職員の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

全文参照

⑦第2020−29号
 札幌市芸術の村の駐車場の駐車料金を支払わずに利用している者がいるため、きちんと支払っているものが不利益を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)


⑧第2020−31号
 札幌市税の減免申請が却下されたことにつき、市民に公開されていない「事務取扱要領」に基づいていること、また、当初は「結果が出るまで4か月程度かかる」という説明だったのが、実際は1か月程度で決定が出されたとして、苦情が申し立てられたケース。すでに却下決定が出ているために、「申立の原因となった事実に利害を有さない」として、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:原俊彦)