上記の期間(2020年9月)に調査を終了したのは9件で、このうち3件で調査結果が通知されている。また、4件は調査しない旨が通知され、2件は申し立ての取り下げにより、調査が終了している。
このうち、第2020-26号は、生活保護費返還に関する苦情である。申立人は、①返還決定に対する審査請求中に納入催告を受けたことと、②生活保護受給者等に対する詐欺的な行為、について苦情を申し立てた。担当のオンブズマンは、①について調査を実施する一方で、②については、申立人に実際の不利益が生じていないとして、調査を実施しなかった。
しかしながら、②の点は、申立人が表面的に主張している「詐欺的」という言い回しはともかく、保護費を返還した場合にその後の審査請求がどのような取扱いになるのかという疑問を解消してほしい、というのがその趣旨であると思われる。
そうすると、②の申立人の表面的な主張からは離れるが、ア.審査請求(または取消訴訟)で保護費の返還決定が取り消された場合、返還ずみの保護費相当額は再度支給されるのか、イ.保護費相当額が再度支給されるとして、その金額は収入認定されるのか、という点を明らかにする必要があるだろう(なお、①については「執行不停止」が原則(行政不服審査法25条1項))。
もっとも、保護費相当額が再度支給されるとしても、その金額が収入認定されるということになるならば、保護費返還決定が取り消された意義は実質的に失われるのであり、申立人の「詐欺的な行為」という言い回しにも、それなりの理由があるように思われる。
調査を担当したオンブズマンは、こうした疑問を抱かなかったからこそ、「申立人に実際の不利益がない」と判断したのであろうが、前提となる制度への理解の貧弱さが露呈したと言わざるを得ない。結果として、申立人(のみならずその背後にいる市民一般)に対し、説明がなされる機会が失われることになった。
続いて、第2020-35号である。この案件は、既視感のある苦情であるが(前提となる事実が第2020-7号と共通しているように思われる)、担当の原俊彦オンブズマンは、申立人が不利益を被ったとは認められないとして、調査を実施しなかった。
しかしながら、この原俊彦オンブズマンの判断は、致命的な欠陥を抱えている。すなわち、「市が行う業務に関する契約において、従前とは異なる契約が締結されたとしても、当該事業の目的が十分に達成される見込みが立つような内容であるならば、その契約が業務上不適切とはいえず」という一般論は述べるものの、今回の苦情の前提となる「市が行う業務に関する契約」において、「当該事業の目的が十分に達成される見込みが立つような内容である」かについては、全く判断が示されないまま、申立人が不利益を被ったとはいえないと判断しているからである。
つまり、一般的な判断枠組みを示すのみで、当該判断枠組みに基づいた個別ケースについての判断を全くしないまま、結論を導いているわけである。
また、より原理的には、市の業務が適切に遂行されたか否かという判断と、オンブズマン調査の対象となる前提としての「申立人の利害」の存否の判断は、本来、異なる判断要素である。それにもかかわらず、この案件で原俊彦オンブズマンは、双方を結び付けた判断を行っている。
こうした判断は、「申立人の利害」という形式論で処理することにより、「市の業務が適切に遂行されたか」という実体的な調査を回避しようとしたゆえのものなのかもしれないが、「手抜き」以外の何物でもないだろう。
ただし、「調査をしない」という結論そのものについては、正当化しうる余地はある。たとえば、申立人の苦情は、公金の適正な支出を問題とするものであり、申立人は利害を有しないであるとか、第2020-7号と同一の申立人であるならば、苦情の再調査を求める内容であるといった理由により、調査を実施しないという対応である(もっとも、申立人が関与する協会が再委託から排除された、という点には申立人の「利害」が認められるであろうし、この苦情が第2020-7号と同一の申立人による苦情であるかも不明である)。
以上の次第で、上記の2件は「申立人の利害」についてのオンブズマン判断に疑問を抱かざるを得ないのだが、こうした判断は、「申立人が適切な説明を受ける」という利益について、オンブズマンが軽視していることを反映しているように思われる。
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①第2020−26号
生活保護費返還決定がなされたことを不服として審査請求を行っているにもかかわらず、保護費返還の納入催告がなされたことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑨第2020−38号
②第2020−28号
隣家が街路樹を申立人の自宅との境界側に移植したことに関し、市が承認したことや申立人の問い合わせに対する市の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
③第2020−30号
北海道胆振東部地震災害義援金の申請をしたにもかかわらず、市には受付をしていないと言われたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)
④第2020−32号
芸術の森職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。「正当な理由がない」及び申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑤第2020−33号
ごみ収集員が左右の安全を確認せずに道路を横断しようとして、ぶつかりそうになるのみならず、舌打ちしたことについて、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑥第2020−34号
市の臨時職員として勤務した際、窓口業務が過重な負担であったとして、その改善等を求めて苦情が申し立てられたケース。「職員の自己の勤務内容に関する事項」に該当するとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)
⑦第2020−35号
市がイベントに際し選定した業者が、イベントを再委託した団体を選定した経緯や理由が不明であるとして、市がイベントの実施責任者かつ監督義務を有する者として全容を解明することを求め、苦情が申し立てられたケース。申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑧第2020−37号
市民の声を聞く課で、スキャナー付きコピー機を利用させてほしいと要望したところ断られたとして、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)
地域協議会の委員の選定方法、協議会の実施方法等について、苦情が申し立てられたケース。申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)