2018/08/28

平成30年7月に調査を終了したケース

平成30年8月1日、同年7月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、8月15日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(平成30年7月)に調査を終了した案件は全13件で、このうち12件で、調査結果が通知されている。また、1件は申立人の取り下げにより、調査が終了している。

①第30−10号
 申立人が考える水道使用量増加の原因は水抜栓の漏水であるところ、水抜栓の構造を知るために市から提供を受けた図面は水抜栓が「閉」の状態のみ記載されたものであったことから、「開」の状態の図面も提供してほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)


②第30−11号
 障害を有する子が施設に短期入所する日数が一か月につき20日となった経緯及び理由についての説明を求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

③第30−12号
 生活保護の受給者が居宅から立ち退きを余儀なくされるとともに、保護を廃止されたとして、保護廃止された日付の決定理由、立ち退きに際し保護課職員が立ち会わなかった理由についての説明及び退去した居宅の私財の現状についての調査を求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

④第30−13号
 隣家の水道管の水漏れの工事に際し、自宅の塀横の通路に止水栓を設置するという説明を受けたものの、結局、止水栓は設置されたかったが、塀を破壊されそのままにされたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)
 

⑤第30−14号
 自宅の近隣に公園内の樹木にカラスが営巣しているところ、カラスから頭を蹴られたとして、巣の撤去を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑥第30−15号
 夜間の下水道工事について、市は工事区域内の住民に対し個別訪問し工事について説明するとともに、留守の場合は「お知らせ」の用紙を配布したということであったが、戸別訪問を受けておらず、用紙も受領していないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑦第30−17号
 申立人が所有する不動産の名寄せ台帳の写しを交付したところ、対応した職員から、1月1日の時点では当該不動産が別の所有者の名義であるとして、名寄せ台帳の写しの交付を受けられなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑧第30−19号
 自宅前の市道にたくさんの糞尿があったことから土木センターに連絡したところ、職員から「そういった清掃はしていない」旨の回答を受けるとともに、糞尿の始末方法について適切な説明を受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)


⑨第30−20号
 地下鉄駅でドニチカキップを購入した際、受領したつり銭が不足していたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)


⑩第30−21号
 障害を有する申立人が、日常生活用具の給付の支給額の増額を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)


⑪第30−22号
 生活保護を受給する申立人が、担当ケースワーカーに質問しても十分な回答を得られない一方で、医療機関の受診に関して質問攻めにされたり、医療機関の受診に関し受信先医療機関への連絡もれがあるなど、その対応に不信感を抱いており、担当ケースワーカーの交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)


⑫第30−24号
 区の保険年金課に、国民健康保険(および介護保険)の保険料が上がらないようにするための確定申告の方法について複数回にわたり問い合わせたにもかかわらず、明確な回答を得られないまま確定申告を行った結果、多額の保険料を賦課され驚いたが、後になって「個人住民税申告」を行っていたら、そのような事態を回避できたことが判明したものの、市税事務所は当該申告の期限はすでに過ぎているとして申告を受け付けてくれないことから、申告の受理を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)


⑬第30−25号
 生活保護受給者が、現在の担当ケースワーカーと十分に連絡をとることができないとして、苦情が申し立てられたケース。申立人が苦情を取り下げたことにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:杉岡直人)

2018/08/05

札幌市オンブズマンは単なるお飾り?~その苦情申し立て、ちょっと待った!part 2

 札幌市オンブズマンに対し、介護保険サービスや障がい者福祉サービスの利用者・家族等(以下、「サービスの利用者等」という)から、サービス提供事業者等に対する市の権限行使(事業者に対する調査や指導など)が不十分であるとして、苦情が申し立てられるケースが散見される。
 そうした案件におけるオンブズマンの調査には、調査の内容が不十分であったり、オンブズマンの判断が見当はずれと思われるものも少なくない。札幌市オンブズマンが単なるお飾りではなく、実質的に意味のある制度であろうとするならば、将来へ向け、調査の進め方を改善する必要があると思われる。
 したがって、現状ではせっかく苦情を申し立てても、期待外れの調査結果に終わる可能性は高い。その苦情申し立て、ちょっと待った!という所以である(なお、今回のエントリーにpart 2とあるのは、過去にその苦情申し立て、ちょっと待った!というエントリーを作成しているため)。

 さて、上記のような案件の典型例が、申立人に調査しない旨が通知された29-66号である。この案件は、申立人が、道社協の運営適正員会に苦情を申し立てたところ、事業所による回答が事実に反していたとして、「市の側から、事業所の対応についてもっと踏み込んだ調査をしてほしい」として、札幌市オンブズマンに苦情が申し立てられたものである。
 このような苦情申し立てに対し、オンブズマンは、①事業所利用者間のトラブルはオンブズマンの所轄事項ではない、②運営適正化委員会は市の機関ではないためオンブズマンの所轄事項ではない、③所長との話し合いの際に市の職員が同席していたことが、申立人の不利益や権利の侵害に関係したとは思われないという理由により、調査しない旨を申立人に通知している。

 しかしながら、申立人の苦情は、①利用者間のトラブルに対し市が直接介入することを求めているわけでも、②運営適正化委員会における苦情対応が不十分であるとして、市が運営適正委員会に働きかけるように求めているわけでもない。あくまで、申立人自らが直面する問題解決のため、市が事業所に対し権限を行使することを求めているのである。したがって、申立人の基本的な発想は、市が適切な権限行使をしないがため、自らが不利益を被っている、ということになるものと思われる。
 また、申立人は、③話し合いの場に市の職員が立ち会ったことで権利・利益が侵害されたと主張しているわけではない(あくまで、市に適切な権限行使を求めているということは、前述したとおりである)。
 この点、一般論として考えるならば、サービスの利用者等が事業者と話し合う席に市の職員が同席しようとした場合、「なぜ、市職員がこの場にいるのだ」と、不審に思う者がいるのではないか。市はいったいどのような理由で、当事者間の話し合いの場に立ち会うのだ、と。したがって、所長との話し合いに市の職員に立ち会うことは、申立人の不利益や権利の侵害には関係しないというオンブズマンの判断は、明らかに適切さを欠いているように思われる。
 以上の次第で、この案件における調査をしないというオンブズマンの判断は、まるで見当はずれであり、とってつけたものであるといわざるを得ない。

 それでは、この案件においてオンブズマンが行うべき調査は、どのようなものであったか。順を追って論点を設定していく必要があるが、①申立人が主張するような調査を実施する権限が市に認められるか、②(①が肯定されるとして)市に権限行使が求められるような事実関係が存するか、③(②が肯定されるとして)市は本件に関し事業者に対し何らかの具体的な対応を行ったか、ということが、調査されるべきであろう。
 また、一般論として、④市にサービス利用者の苦情が寄せられた場合において、市がどのような対応をしているか、について把握しておく必要があるかもしれない。

 ところで、札幌市オンブズマンの所轄事項は、「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」である。したがって、①サービスの利用者等、②サービスの事業者、③市の三当事者関係で見ていくと、オンブズマン調査の対象となるのは、①サービスの利用者等と②サービスの事業者の関係は、市の直営事業でない限り、オンブズマンの所轄外の事項となる(市の業務の執行でも、当該業務に関する職員の行為にも該当しないため)。
 しかしながら、①サービスの利用者等から、②サービスの事業者が指定基準に違反しているであるとか、サービスの利用者等が施設職員から虐待されているといった情報が寄せられた場合、③市が②サービスの事業者に対し、調査を実施する等の権限を行使することは、十分に考えられるところである。
 ただし、この場合には、単なる①サービスの利用者等と②サービスの事業者等の関係の問題ではなく、②サービス事業者による法令違反の嫌疑等、市が権限を行使すべき事実が存在することが前提になる。
 これに対し、①サービスの利用者等が③市に対し相談を寄せたけれども、その内容であるならば、①サービスの利用者等と②サービスの事業者の二当事者間で解決が図られるべき問題である、換言するならば、市の権限行使の対象となるような問題ではない、という場合には、③市は相談を寄せた①サービスの利用者等に対し、その旨を適切に説明したか否かについては、オンブズマンの調査対象になりうるであろう。

 いずれにせよ、上記の三当事者関係においてオンブズマンによる所轄事項となりうるのは、サービスの利用者等が市に相談をした場合等において市の職員の対応が適切になされたか、あるいは、サービスの事業者に対し市の権限行使が適切になされたかという、二つの局面がある、ということになる。
 このことは、サービスの利用者等の視点で、どのような苦情処理のシステムが利用可能かを考えた場合、札幌市オンブズマンという制度には限界がある、ということを意味している。すなわち、サービスの利用者等がサービスの事業者に不満を抱えていても、札幌市オンブズマンには、事業者に対し直接調査をする権限は認められておらず(事業が札幌市直営の場合を除く)、調査の対象となりうるサービスの事業者に対する市の権限行使についても、その権限は法令等に定められた範囲に限定されているからである。
 それでもなお、サービスの利用者等が札幌市オンブズマンに対し苦情を申し立てたいというのであれば、札幌市オンブズマンとしては、調査をしないための理由をこじつけるのではなく(この点、第29-66号では理由づけに成功しているとは思われない)、所轄事項の範囲内で適切に調査を実施することが期待される。
 したがって、場合によっては、札幌市オンブズマンに苦情を申し立てようとする福祉サービスの利用者等に対し、利用可能な他の制度についての情報を提供することも重要であろう。
 たとえば、介護保険サービスにおける北海道国保連への苦情申し立て、福祉サービスにおける北海道社会福祉協議会の運営適正化委員会への苦情申し立て、さらには、札幌市社会福祉協議会が独自事業として実施する福祉サービス苦情相談など、さまざまな苦情処理や相談の制度が存在しているのである。
 そして、これらの制度についての情報は、札幌市オンブズマンが他の制度と適切に棲み分ける上でも、必要不可欠なものである。ただし、札幌市オンブズマンが単なるお飾りではなく、実質的に意味のある制度であろうとするならば、の話であるが・・・。