2017/05/01

その苦情申し立て、ちょっと待った!

「札幌市オンブズマン」とは、札幌市が設置したいわゆる「行政オンブズマン」の制度である。このブログでは、ブログ開設者自らが公文書公開請求を行った、札幌市オンブズマンの「苦情等調査結果通知書」等について、札幌市オンブズマンの活動に興味を持つ人々へ向け、その内容を提供している。

いうまでもないことであるが、札幌市オンブズマンの役割の一つに、市民から申し立てられた苦情について調査することがある。そして、調査の結果、オンブズマンが市に対し何らかの改善を要請した場合、市がそのことを受けて一定の改善を図る(場合もある)、というのが制度の一般的なイメージであろう。

しかしながら、すべてのケースにおいて、苦情申立人の要望が叶えられるわけではない。また、オンブズマンがむしろ、申立人の足を引っ張った、とでもいうべき案件も存在する。さらに、”簡易迅速”を謳いながら、調査にどれだけの日数を要するかは、実際に苦情を申し立ててみないとわからない(過去の処理日数の状況については、年度別オンブズマン別に紹介している)。

以上のことからすると、オンブズマンに苦情を申し立てるには、それに先だち、オンブズマンが十分な調査を行うことができるか、さらには、そもそも苦情申し立てにおける要望に実現可能性があるか等、慎重に検討することが求められるであろう。その苦情申し立て、ちょっと待った!、という所以である。

そこで、以下では、札幌市オンブズマンが申立人の足を引っ張ったとでもいうべき案件について紹介する。読者諸氏には、この制度の利用する際の考慮要素としていただきたい。

さて、平成28年度における札幌市オンブズマンの調査には、札幌市オンブズマンの調査に関する公文書公開請求を行った者が、札幌市オンブズマンに対し苦情を申し立てた案件がある。当ブログの読者諸氏にとっては、当ブログ開設者自身が行った苦情申し立てであることについては、改めて説明するまでもないであろう。第28-58号及び第28-71号の2件がそれである。

このうち、第28−58号は、一部公開決定の対象となった苦情等調査結果通知書の公開に際し、交付された電磁的記録の作成方法について、苦情を申し立てた案件である(なお、一部公開決定の場合には、公開対象公文書に非公開情報が含まれているため、当該部分が黒塗りの上、公開されることになる)。

この案件において、オンブズマンは、「電磁的記録の一部公開の場合には、用紙に出力されたものの交付とするとした市の判断には合理性があると認めます」、「電磁的記録の一部公開の場合には電磁的記録を用紙に出力したものの交付によることとしていることが現時点で直ちに問題があるということはできません」、という判断を行っている。

しかしながら、市は、「一部公開決定の対象となる文書は用紙に出力したものの交付とする」と説明しておきながら、実際には、一部公開決定の対象となった文書について、一旦用紙に出力したものをスキャナーで読み込み、pdf化した電磁的記録として、申立人たる当ブログ開設者に提供しているのである。

このように、市の回答は、一般論としての説明と実際の対応に齟齬があるところ、上述のオンブズマンの判断は、こうした齟齬を見逃している。のみならず、申立人たる当ブログ開設者が、提供を受けた電磁的記録の作成方法について苦情を申し立てているという点も一顧だにしていない。そのため、オンブズマンの判断自体、的はずれなものとなっている。

すなわち、申立人たる当ブログ開設者の要求は、用紙に出力したものをスキャンしたデータではなく、デジタルデータを直接pdfファイルに変換したものを提供することである。したがって、苦情の要点は、市が一旦用紙に出力したものをスキャンしたデータとして提供することの当否である。このような苦情に対し、オンブズマンは、「用紙に出力したものの交付とするとした市の判断には合理性がある」という判断を示しているが、全くもって苦情に対する答えになっていない。そうであるならば、オンブズマンが申立人の足を引っ張ったと評することも許されるであろう。

なお、この案件の苦情申し立ての後、申立人たる当ブログの開設者が市の担当部局に照会したところ、公文書公開請求に基づいて電磁的記録たる公文書の一部公開決定をした場合において、当該電磁的記録たる公文書をいったん用紙に出力し非公開部分を黒塗りしたうえでスキャンしたpdfファイルを提供することは、公開対象となる文書の公開が原則として義務付けられる「公文書公開請求」に対する対応としてではなく、担当部局が任意に実施する「情報提供」として行っている、ということであった。

続いて、第28-71号は、以下の3点に関する市の説明、すなわち、①公文書公開請求に対し一部公開決定がなされた場合に非公開部分を黒塗りとすること、②非公開情報が含まれていない電磁的記録たるwordファイルをpdf化すること、③一部公開決定の対象となった文書を「情報提供」として電磁的記録を交付すること、について疑義があるとして、苦情を申し立てた案件である。

なお、この苦情申し立てに際しては、第28-58号において示されたオンブズマンの判断が的はずれであったことから、再度そうした事態が生じることを懸念し、「この苦情は、公文書公開請求がなされた場合、紙ベースで管理している公文書について、電磁的記録化して交付することを求めるものではない」旨、苦情申し立ての趣旨を補足する文書を提出した。

以上のような苦情申し立てに対し、市がどのような回答をし、オンブズマンがどのような見解を示したかについては、苦情等調査結果通知書(第28-71号)で確認していただくとして、ここで問題としたいのは、以下のようなオンブズマンの見解である。

「オンブズマンとしては、本件対応のような公文書公開方法が、制度上、明確な位置付けがないということについては、違和感を覚えました。」

ここでいう「本件対応のような公文書公開方法」とは、電磁的記録たる公文書が一部公開決定された場合、いったん用紙に出力し非公開部分を黒塗りした上で、スキャンした電磁的記録を開示請求者に交付する取り扱いのことを意味している。そして、オンブズマンは、そうした対応が「制度上、明確な位置付けがない」と述べるのである。

ところで、電磁的記録には、そのままの形では視認できないという特性がある。そのため、電磁的記録たる公文書を公開する場合には、紙ベースの公文書の場合とは異なった取扱いが必要となる。札幌市においても、そのことを前提に、公文書が電磁的記録である場合の公開方法等の諸規定が定められている。

すなわち、「公文書公開制度」においては、文書、図画、写真又はフィルムの公開方法として、「閲覧又は写しの交付」が定められているところ(札幌市情報公開条例15条1項)、電磁的記録たる公文書の「写しの交付」については、「用紙に出力したものの交付」(札幌市情報公開条例施行規則7条3号ウ)、「フロッピーディスクに複写したものの交付」(同号エ)及び「光ディスクに複写したものの交付」(同号オ)という方法が定められている。

また、市の説明によると、電磁的記録媒体への「複写」(同施行規則7条3号エ、オ)とは、電磁的記録たる公文書を電磁的記録のまま交付することを意味する、ということである(なお、このような説明の当否が、申立人たる当ブログ開設者の苦情における論点③である)。したがって、いったん用紙に出力したものをスキャンして改めて電磁的記録化した場合については、公文書公開制度における公文書の公開方法、すなわち、電磁的記録媒体への複写には含まれない、ということになる。

とはいえ、そうであるからこそ、市は札幌市情報公開条例が定める「情報提供」(同条例20条1項)として、申立人たる当ブログ開設者に電磁的記録を提供しているのである。この点、市の担当部局の説明によると、電磁的記録を用紙に出力しスキャンしてpdf化したものを提供するという方法は、札幌市情報提供推進要綱が定める、「その他各部長が適当と認める方法」(同要綱3条4号)による、ということである(同要綱は、情報提供の方法として、「公文書の閲覧又は写しの交付」(同要綱3条2号)についても規定しているが、ここでいう「写しの交付」とは用紙を交付することを意味しており、pdf化したスキャンデータの交付は、同号の定める「写しの交付」には該当しないということであった)。

以上をふまえると、オンブズマンが、一部公開決定の対象となった文書について、いったん用紙に出力したものをスキャンしてpdf化するという市の対応が、「制度上、明確な位置付けがない」と述べるのは、いささか早計であったといわざるをえない(なお、札幌市情報公開条例は、公文書公開制度の根拠規定であるが、前述のように「情報提供」の根拠規定でもあり、その名称が「公文書公開条例」ではないことの意義は、案外大きいという思いを当ブログ開設者は抱いている)。

むしろ、オンブズマンが判断すべきは、このような「情報提供」として対応することの当否ではなかったか。そして、札幌市の公文書公開制度において、電磁的記録たる公文書をいったん用紙に出力したのち、スキャンすることにより再度電磁的記録化することが公開方法として定められていない以上、次善の策として、市が「情報提供」として対応することは許容される、ということになるのではないか。

これに対し、オンブズマンはこのような検討を行うことなく、市の対応が「制度上、明確な位置付けがない」として、紙ベースの公文書を電磁的記録化することの根拠を模索し(肯定)、その論理を電磁的記録たる公文書の場合にも、当てはめようとするのである。

しかしながら、このような検討は、電磁的記録たる公文書には紙ベースの公文書とは異なった特性があり、電磁的記録たる公文書の公開方法については、すでに規定があることを看過している点に致命的な問題がある。

また、前述のように、この案件において申立人たる当ブログ開設者は、「この苦情は、公文書公開請求がなされた場合、紙ベースで管理している公文書について、電磁的記録化して交付することを求めるものではない」旨、苦情申し立ての趣旨を補足する文書を提出している。

ところが、オンブズマンは、そのような申立人たる当ブログ開設者の意向を全く無視し、文書、図画、写真又はフィルムの写しの交付について、「コピー機による写しだけでなく、スキャナによって読み取ってできた電磁的記録をCD-Rに複写したものも含むと解釈することはできないか」について、検討を行っているのである。

その上で、「文書の写しの交付に代えてスキャナで読み取ってPDF化したものを交付することが、市の情報公開制度で明確に位置付けられることが、市民の知る権利の観点からも望ましい」と結論づけるのである。

このようなオンブズマン判断は、申立人たる当ブログ開設者が、あえて「紙ベースで管理している公文書について、電磁的記録化して交付することを求めるものではない」旨、苦情申立ての趣旨を補足していることと相容れないのみならず、申立人たる当ブログ開設者の苦情が、電磁的記録たる公文書の公開方法についてのものであることからすると、的はずれである。

むしろ、市がすでに「情報提供」で対応しているところ、オンブズマンがあえて「公文書公開」で対応することを求めるのであれば、現在の「情報提供」による対応が許容されないという判断があって、はじめて「公文書公開」での対応を求めることが正当化されるであろう。

そこで、この点を含め数点にわたり、担当オンブズマンに照会したところ、この点に関すると思われる回答は、「情報公開制度については、様々な課題があることを前提とし、今後の在り方の方向性を示した部分もあることをご理解ください」というものであった。

・・・・・ということは、オンブズマンとしては、市が現在、「情報提供」で対応していることは適切ではない、ということを含意しているのであろうか。残念ながら、その意図するところは明らかでない。

現行の制度の枠内で、解釈・運用を変更し改善を図ろうとする場合と比較し、制度枠組みそのものを変更し改善を図ろうとすることは、後者の方がより困難が伴うであろうことは、容易に想像できる。本件において申立人たる当ブログ開設者が指向したのは、電磁的記録たる公文書の写しの交付を電磁的記録媒体への複写により実施するという、現行制度の枠内での運用の変更である。

これに対しオンブズマンは、紙媒体たる公文書の電磁的記録媒体への複写という、現行制度では予定していない取扱いを新たに実施することを指向しているのであり、現行制度の枠内での運用の変更と比べると、その実現には、より困難が伴うであろうことは容易に想像できる。したがって、ここでもまた、オンブズマンが申立人の足を引っ張ったと評することが許されるであろう。

以上、紹介した第28-58号及び第28-71号の苦情は、公文書公開制度及びより広い意味での情報公開制度に関する、技術的性格の強い苦情である。そのため、直ちに一般化することは困難かもしれないが、申立人たる当ブログ開設者としては、オンブズマンの判断が「的はずれ」であるとともに、「足を引っ張られた」との印象を抱かざるをえなかった。読者諸氏に対しては、このことだけはお伝えしておきたい。